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EQと組織パフォーマンス:リーダーが知っておきたい「集団活動で発生する癖」

by : 6SJ 組織活性化研究センター フェロー 山本 憲幸  | 

2017年12月1日 | 

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Six Seconds Japan 組織活性化研究センターのフェローを務めております株式会社ビヘイビアチェンジパートナーズ 代表取締役 山本憲幸です。

第3回~5回では、チーム活性化のための診断について紹介してきました。今回は、チームを活性化する際、リーダーに押さえておいて頂きたい視点として、「集団活動の癖」について紹介してきます。

番外編でも述べましたが、チームが形成されると

『リーダーへの依存』
『リーダーへの反依存(反発)』
『依存派と反依存派に分かれた水面下での分派活動』
『依存派と反依存派の葛藤解決or逃避による無関心の増大』

というチーム状態が発生します。
この過程をタックマン氏は集団の成長過程として『forming』『storming』『norming』『performing』と表現しています。

このような状態が発生する原因は、所属するメンバーの欲求に違いがあるためです。

集団が形成されると、特に

「方向性への納得度(目的や目標)」
「方法に対する許容度(手段、やり方、手順)」
「開放性の程度(本音の発信の程度、受容の程度)」

に対し、最初は、自らの欲求を抑えつつ、様子見をし、許容範囲を手探りで確かめていきます。
リーダーや他メンバーが要求しているだろうということを推測し、同調行動を取りながら、集団における自らの役割と規範を確立させていきます。

規範とは、集団の中で、構成員が『良い悪い』の価値観を意識せず、準拠している行動様式のことです。
「ここでは、こういうことをすることになっているのだよ」
「ここでは、こういうことをすると嫌がられるよ」
「理由はともあれ、ここではこうしない方がいいよ」

集団活動では、心理的安全な場を得るために、集団形成時に驚くほど早く規範ができ上がります。私自身、研修や1回目のスタートアップミーティングなどで、あっという間に規範が出来上がる場面に何度も遭遇しています。

『口火を切る人、仕切る人、模造紙を書く人、合いの手を入れる人、最後に話す人』
『笑い声の大きさ、冗談の頻度、話す順番、真剣さの程度、突っ込みの程度』など
誰かが話し始めると皆がホッとし、誰かが仕切り始めると安堵しながら身を任せます。

しかし、役割や規範の確立後、時間の経過とともに、様々な心理的葛藤が生まれ始めます。

「何故あの人が仕切るのか?生産性が低いのは、あの人のせいだ。」
「私ばっかり模造紙を書く役割を負わされている。皆が分担すべきなのに、嫌がって書こうともしない。卑怯な人達だ。」
「もう少し真剣に取り組むべきだ。ちゃかしてばかりで。でも誰も咎めないから、言っても仕方ないか。所詮研修だし、2日間、私が我慢すれば良いさ。」

しかし、このように葛藤している心理状態を口に出して、改善することは殆どありません。

規範は一旦出来上がると、糸のように癖がつき、当初規範や役割を踏襲しようとする強い作用が働きます。
その規範が、生産的であろうが非生産的であろうが、変える事に対し構成員は強い抵抗を示します。
何故なら、規範を変えることは構成員にとって、今後どのような行動を取ってよいのか拠り所を奪い、心理不安を高め、居心地を著しく悪くしてしまうからです。

最後には、変化に対し抵抗する同調圧力を高め、変革しにくい規範が出来上がります。

このような同調圧力下にある心理状態を持った集団では、個々人の意見を出しづらくなり、多様な意見を議論することなく意思決定をしてしまいがちで、心理学者のジャニスは、集団浅慮(group think)と名付けました。

例えば、集団構成員の全員が「あの会議は意味ない会議だ」と思っていても、会議を毎週開催してしまっているのは、このような心理背景があるからなのです。

心理学者のクルト・レヴィンは、このように硬直した集団状態を力の場(推進力と抑止力という力)の分析という考え方を用い、推進力と抑止力が拮抗した状態「凍結」と述べました。また、変革の過程を「凍結」「解凍」「変化」「再凍結」と示しました。

この凍結した状態を解凍し変化させ、新しい規範を創り上げ定着させることが、変革リーダーの役割となります。

リーダーとしてチーム状態を診断し、メンバーの問題認識を浮き彫りにさせ、凍結した状態を、解凍する場を設けます。チーム診断はこの解凍を促進するための有効な道具となります。

その後、変化の過程に入っていくのですが、多くの組織では、推進力を高める活動ばかりを行ってしまいがちです。推進力を高めると同時に抑止力も高まることを見落としてしまい、推進力を高める計画を立てるものの、変革が実行されない壁にぶつかります。

団活動における凍結段階では、既に推進力が高まって、心理的葛藤が起こっていることも多いため、リーダーは推進力を高めるのではなく、まずは、抑止力を「無くす」ないしは「減らす」ことに着目してみましょう。

変化を促進し、新たな行動を定着させるまで、リーダーは自身の言動に細心の注意を払いましょう。自ら率先して行動するだけでなく、新たな規範に合致した行動をしたメンバーには、褒めたり承認したりするフィードバックを行い、前の規範に戻る行動をしたメンバーには行動改善のフィードバックをし続け、当たり前の行動基準として定着するまで粘り強く関わりましょう。

次回は、リーダーとして活性化のために、おさえておきたい人間心理と感情問題について紹介していきます。

Six Seconds Japan 組織活性化研究センター フェロー
山本 憲幸