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EQ研究の変遷と、Six Secondsの発足

by : 6SJ  | 

2010年4月6日 | 

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EQ研究の発端

多くの人にとって、EQを初めて知ったきっかけは、ダニエル・ゴールマン著「EQ こころの知能指数」(講談社、1996年)という本の存在かと思います。米国では「Emotional Intelligence: Why it Can Matter More than IQ(感情知能:なぜEQはIQよりも重要なのか)」というタイトルで、1995年に出版されました。米国の心理学ジャーナリストであったゴールマンは、感情知能(EQ)という分野を牽引する数々の科学者や研究者たちの研究結果や著書を参考にして本作を執筆しました。その研究者のうち二人が、EQ研究の第一人者たちと呼ぶにふさわしいピーター・サロベイ博士(イエール大学プレジデント、イエール大学心理学教授)とジョン・メイヤー博士(ニューハンプシャー大学心理学教授)です。

若き心理学者だった二人は、1986年のある夏の日、認識や感情に関する研究について語らいながらペンキ塗りをしていました。議論は政治家の思考や行動に及び、二人とも「これほどの賢い人が、これほど愚かな行動をとってしまうのはいったいなぜなのだろうか」、と不思議に思ったと記述しています。

そして、その要因として、二人は

賢い意思決定には従来のIQで測定した知性を超えるものが必要

従来と異なる知性が無ければ、現実に起こっていることの説明ができない

という結論に至りました。これがEQ研究のはじまりです。

二人は1990年に、感情知能に関する初めての学術的な定義を発表し、その後も研究を深め、同僚であったデヴィッド・カルーソと共に、MSCEIT (Mayer-Salovey-Caruso Emotional Intelligence Test)と呼ばれるEQテストを開発しました。

 

科学的根拠に基づいたEQ研究の発展と、ヌエバスクール

ゴールマンは「自己認識(Self-Awareness)や、自己規制(Self-Regulation)、共感(Empathy)といった要因が、人々の成功を決定づける」と述べました。研究者たちがかつて「感情は思考の一部に過ぎない」と発表していたのに対し、近年では「感情は思考にとっての鍵である」ということがわかっています。EQ研究者たちは、

・チームワークや信頼関係を助長したり乱したりするために、人々がどのように影響し合っているか

・何故人々は時に攻撃的な反応を示すのか

・脳科学の根拠に基づいた”突発的に沸き起こる感情”について

・人々がいかに慎重に、意識的に意思決定を行えるか

を次々と明らかにしています。

サロベイ博士とメイヤー博士によるEQ研究に先立ち、1960〜70年代にかけ、人口知能や脳科学の研究が進むなかで、心理学の世界においても「感情」と「知能」の解釈の見直しが加速度的な進展を見せはじめました。1967年、現シックスセカンズ会長であるカレン・マッカーンは、「子供をランク付けするのを止め、子供達がそれぞれに持って生まれた才能や資質を見つけ、それを伸ばす」ことを目標としたThe Nueva School(ヌエバスクール)を開校しました。社会性と情動の学習を促進する先駆者的な教育機関として、ブルーリボン賞を2度受賞をしている米国を代表する学校に育て上げました。1995年、前述の著書の中でゴールマンは、ヌエバスクールを「Emotional Intelligence 教育の唯一の先進校」と紹介していたのです。

1970〜80年代、多くの思想リーダーや研究者は、数々の政治的大事件や倫理観を軽視した退廃的な世相は、IQに偏り過ぎた教育システムの結果であるという説を主張し始めました。同時にIQとは異なる知性の源泉として「感情」への注目が集まります。サロベイ博士とメイヤー博士が提唱した仮説、そしてEQ理論は、より実践的な研究の舞台にあがり、さまざまな分野の専門家によって「感情知能」の概念が形づくられていきました。

 

Six Secondsの発足

ゴールマンの著書で世界中に知られるようになったヌエバスクールは、教育現場での実践的な知見と理論に関して、世界中から問い合わせを受けるようになりました。それは教育界のみならずビジネス界をはじめとし、より幅広い分野の方たちが活用したいと問い合わせました。知見を世界中へ伝えていくために、同校設立者カレン・マッカーン(現Six Seconds会長)、元事務長アナベル・ジェンセン(現Six Secondsプレジデント)ら、同校のトップたちはそのための組織を設立し、前述のピーター・サロベイ博士を筆頭にした、心理学、脳科学、教育界、ビジネス界の有識者をアドバイザリーボードに迎え1997年に米国サンフランシスコに本部を置きました。それが米国NPO法人である”Six Seconds”です。

21世紀に入ると、さらなる科学技術の進歩により、CT、MRI、PET、NIR(近赤外分光法)などを駆使して脳の活動を可視化する脳機能イメージングや、脳の各部位がどのような働きをしているか調べる脳機能マッピングが積極的におこなわれるようになりました。それにより「感情」と「思考」が脳の機能として密接に関わりあっていることが解明され、それまで仮説であったEQ理論に対して確かな裏付けがなされ始めました。

Six Secondsは、ビジネス界向けには調査研究、EQ学習ツールの開発、EQ検査SEIの開発、EQを伝えるプロフェッショナルの育成と認定、教育界向けにはEQを育む新しい学校である「シナプススクール」を事業の柱とし、国連の制定する世界こどもの日に合わせた子供向けEQイベントを世界同時多発的に行うなど、グローバルネットワークを形成しています。社会生活におけるさまざまな課題に対し「感情」の視点を組み入れることで、問題解決や目的達成を促進することが科学的に裏付けされてきたことにより、米国、イタリア、日本をはじめとし、全世界で導入が進めてきました。世界最大のEQの専門組織として、「感情」「思考」「行動」をトータルに捉える実践的なSix SecondsのEQモデルは、現在世界169か国、ビジネスのみならず、教育、スポーツ、政府など、あらゆる業界において導入され、活用されています。