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社会生態学 ― ドラッカーが伝えたかったこと(9)

by : 6SJ経営研究センター フェロー 今村哲也  | 

2019年2月20日 | 

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ドラッカーは自身を社会生態学者と規定した。経営学者だとは言っていない。また彼が「世の中はこうなる」と断言し、その通りになることが多いことから未来学者とも言われるが彼自身はそうも言ってはいない。この短い連載を読んでいただいた方には、なぜ彼が自分自身を社会生態学者と言ったか、そしてマネジメントとの関連はどういう事なのか、すでにおわかりになっておられるかもしれない。

シックスセカンズジャパン経営研究センター今村フェローによる「ドラッカーが伝えたかったこと」シリーズ第9弾をお届けします。

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ナチが台頭し始めた時、周囲の知識人たちはヒトラーが政権を選挙で獲得するなどとは全く考えていなかった。しかし彼はドイツからロンドンに脱出するときに、ナチが起こすであろうホロコーストまで目に浮かんだ、と語る。なぜなのか?世の中で、すでに起きた変化動向をきちんととらえたうえで、論理的に考えれば、世の中がどう変化するのか想定できる。だから社会生態学を語るとき「すでに起こった未来」という言葉をキーワードにする。この考え方がドラッカーの多くの教えにも通じている。たとえばTHOB(事業は何か、顧客は誰かに始まる一連の問い)を考えること、それによってイノベーションを日常業務とすること。これは「すでに起こった未来」を考える典型的な事例だ。ドラッカーはイノベーションの中でも最も成功率の高いものが「予期せざる成功と失敗」だという。そこではまさしく世の中の変化動向を見、考えること即ち社会形態学的な発想が必須となる。そして何を捨て何に取り組むかを考えること、それこそがそこにINTEGRITYがあれば「Getting the right things done(正しい仕事を成し遂げる)」と「Doing the right things(正しいことを正しく行う」になる

ドラッカーはマネジメント(含むリーダーシップ)を構築することによって、機能する社会の構築を理想とした。その議論のプロセスで、社会の変化に大きな影響力を持つ企業という組織を考察するとともにその中での個人の考察を行った。その結果、仕組みとして知識労働者の社会とは組織社会でありその中の人間の欲求の満足のために社会の変化とそのメカニズムを合わせて考えざるを得なかった。だからリーダーシップを考えるにあたり、そのもっともピュアな形で語られる非営利組織についての議論となるのは必然だった。ドラッカーがあたかも予言者のように言われる側面を持つのは、このように社会の形態の変化を踏まえた考察を行っているからである。

では亡くなる直前にはどのようなことを考えていたのだろうか。ドラッカーの社会生態学者としての「遺言」とはなんなのだろうか?このワードを冠した書籍もある。しかしながら筆者にはドラッカーが亡くなる直前には「フラット化する世界」を読んでいたという事から、彼が考え纏めたいと願ったことが見えるような気がする。それは「未来の組織とはどういうものか」ということだ。1985年の論文で彼は「情報化組織(Information Based Organization)」について記述し、「自分にもまだこれがどういうものかどうするべきなのかわからない」とも書いている。
ドラッカーは、産業革命という生産手段の飛躍的な効率化の影響もさることながら、その後に生じたテイラーイズムを高く評価した。これこそが富を生み出すもとになったと考えた。そっくりなことをもう一度語っている。コンピューターの発明だ。そしてその延長線上で発展した通信技術によって、今や世界最先端の情報がリアルタイムで入手できる。コンピューターの発明は重要だけれど、社会そのものを本質的に変化させたのはそこから派生したインターネットを中心とした通信技術だと語る。そしてこの仕掛けが同時性(一度に情報を送れる)、同送性(同時に多数に送れる)、及び匿名性(発信者を匿名化できることと受信者以外には秘匿できる)を生む。これらが社会に与えた変化の一つが、彼が「情報化組織」と名付けたものだ。単なる情報に満ち溢れた組織のことではない。「情報の流れに基づく組織」(Information Based Organization)であることに注意。この意味については次回にしたいと思う。

シックスセカンズジャパン株式会社
経営研究センター フェロー
今村哲也


 

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