サッカー日本代表チームの変化と成長
by : 6SJ 組織活性化研究センター フェロー 山本 憲幸 |
2018年7月4日 |
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Six Seconds Japan 組織活性化研究センターのフェローを務めております株式会社ビヘイビアチェンジパートナーズ代表取締役 山本憲幸です。
2018年ロシアワールドカップ。開催前の下馬評を覆し、グループリーグ1勝1敗1分勝ち点4を獲得し、決勝トーナメントに進出。史上初のベスト8を狙ったベルギー戦ではスコア2-3で惜しくも敗退したものの、ベスト16進出を果たしたサッカー日本代表チーム。
今回は「チーム成長と変化」という視点からサッカー日本代表チームについて記述していきたいと思います。
コミュニケーションスタイルがもたらした「心理的に安全な場作り」の失敗
2018年4月7日付けで、ハリルホジッチ監督の電撃解任というニュースが流れました。予選の対戦成績0勝5敗2分と相性の悪いオーストラリアに、スコア2-0で勝ち、アジア予選を見事1位通過の成績を残したにも関わらず、コミュニケーション不足という理由で解任されました。
2014年ブラジルワールドカップでは、「自分達のサッカー」を追求したザック監督が率いた日本代表は、グループリーグで敗退(0勝2敗1分)し、成果を出せませんでした。その時の反省から、ワールドカップを勝ち抜いた経験がある監督が必要と判断し、アギ−レ監督、ハリルホジッチ監督を選任したにも関わらず、大会69日前に解任し、ワールドカップで采配をしたことのない西野監督に委ねる判断を下した協会に驚きました。
コミュニケーション不足が解任理由でしたが、コミュニケーションとは意思疎通であり、コミュニケーションの問題は、片方だけが問題発生の要因とはならず、意思疎通出来なかった相互に要因があったと推察します。
ハリルホジッチ監督は、2014年ブラジルワールドカップでアルジェリアの監督として、同国史上初のベスト16進出を果たし、優勝国ドイツに延長戦に持ち込むまで善戦(スコア1-2)し、高い評価を得ました。他国の強みを消す戦術家としての強みを持つ監督でしたが、親善試合の試合内容や選手の発言から、『縦に速いサッカー』とのキーワードが出ていましたが、ハリルホジッチ監督がどのようなサッカーを実現したいのか、その戦術的意図を選手、協会と共有出来ていなかったことが解任に繋がったのではないかと思います。
何故意思疎通が出来なかったのか?
ハリルホジッチ監督のコミュニケーションスタイルがもたらす『心理的に安全な場作り』が出来なかったことが最大の原因だと考えます。解任後に行った記者会見(4月27日)の様子から、ハリルホジッチ監督は発信行動が強いが、受信行動が弱いスタイルであると感じました。親善試合において、監督は選考する側で、選手は選考される側です。監督の意図や指示を忠実に守ることが選考されやすくなると考え、監督に発言し反感を買ってしまうより、言われたことを履行する行動を選択してしまうのではないでしょうか。受信行動が得手でないハリルホジッチ監督に対し、選手から戦術的意図や自身の考えを共有するための環境を作れず、結果、選手から協会に対し、SOSを出すに至ったのではないでしょうか。
Google社が発表した「成功するチームの構築に最も重要なもの」
心理的な安全性とは、Google社が2012年から約4年間かけて実施した大規模労働改革プロジェクトなどの研究成果報告として『心理的安全性(psychological safety)は、成功するチームの構築に最も重要なものである』と発表し注目された概念です。自分の言動が他者に与える影響を強く意識することなく、感じたままの想いを率直に伝えることが出来る環境や雰囲気を指します。
西野監督が着任後、選手の意見を吸い上げるコミュニケーションスタイルを取ったことで、この心理的安全性を飛躍的に高め、チーム内の信頼関係構築を短時間で築けたことがチーム作り成功の基盤となったと思います。
西野監督が短期間で成し遂げたチームの成長
以前『リーダーが知っておきたい「集団活動で発生する癖」』でお伝えしたように、チームの成長には過程があり、チームが形成されると、
『リーダーへの反依存(反発)』
『依存派と反依存派に分かれた水面下での分派活動』
『依存派と反依存派の葛藤解決or逃避による無関心の増大』
というチーム状態の変化が発生します。
西野監督が指揮を取った2試合で、「過去ワールドカップに選出されたメンバーが標榜するスタイルへの依存」から「今までのスタイルに対する反依存」、そして、「話し合いによる葛藤解決の過程」を短期間で経ることができ、確実なチーム成長を成し遂げました。
また、集団の凝集性を高め、一体感を築くためには7つの方法があるのですが、この7つ全てを満たすことができたことも成功した要因であったと思います。
2. メンバーと共に過ごす時間を増やす
3. 集団を物理的に孤立させる
4. 集団目標への合意を促進する
5. 集団のステータスを高める
6. 個々のメンバーでなく、集団全体に報酬を与える
7. 他の集団との競争を促進する
特に、今回は4の集団目標が、2014年ブラジルワールドカップの「自分達のサッカーを体現する」のではなく、下馬評の低さ、国内外のバッシングなどにより、「勝つ」ことに対し、チーム全員の目標合意が出来ていたのではないかと思います。
2022年のワールドカップに向け、既にスタートを切り始めたサッカー日本代表チーム。今回の学びを活かし、ベスト8進出を果たして欲しいと切に願っています。今回素晴らしい成績を残したサッカー日本代表チームの皆様には、心から御礼と惜しみない賛辞を送りたいと思います。
シックスセカンズジャパン 組織活性化研究センター フェロー
山本 憲幸