EQ articles

パフォーマンスを左右する目に見えない大事な要因を読み取るEQのちから

by : 6SJ 須澤 知史  | 

2018年7月17日 | 

, , , , , , , ,

大盛り上がりを見せた「ワールドカップ サッカー2018 ロシア」もフランスが優勝という形で幕を閉じました。
日本戦はもちろん、最後の最後まで何があるかわからない、サッカーの面白さを改めて感じさせてくれる大会でした。
大会前、優勝ブラジルを掲げていた私の予想は日本を撃破したベルギーに打ち破られ、そしてそのベルギーも優勝したフランスに敗れるというどのチームも力が拮抗した大会でした。

 

「試合の流れ」と「感情情報」

以前サッカーの監督をしていた私は、サッカーの試合があると分析的に試合を見るクセがついています。
キックオフまでにこれまでの試合のチームデータを簡単に確認し、
試合が始まると開始5分~10分で2チームのフォーメーションや選手の配置、
そのチームのキープレーヤー、攻撃の仕方の特徴、守備の仕方の特徴などを確認し、
そしてお互いの戦術の強みや弱みなどをゲームの早い段階で見極めようと、画面から得られる視覚情報に集中
します。

しかしどれだけ食い入るように画面を見ていても、直接は目に見えない、得にくい情報があります。
それは「試合の流れ」として表に現れる個人やチームの「感情情報」です。

サッカーでは1試合の中でも試合の流れは大きく変化し、必ず両チームにチャンスやピンチが訪れます。
一つのプレーごとに変化する個々の選手たちの感情の変化に始まり、チームとしての雰囲気や感情に変化が起こり、そしてさらにはスタジアム全体の「空気」となって伝わっていきます。
スタジアムでサッカーを観戦したことがある人は、肌でその空気の変化を感じたことがあるのではないでしょうか。

 

感情が空気となって伝わっていく

感情の研究では感情の持つ特徴として以下の4つの事がわかっています。

感情は
・沸いてしまうもの(化学物質)
・メッセージをもたらす(それぞれの感情の発生には理由がある)
・ユニバーサル(人類に共通して備わっている)
・伝播する(細胞レベルで感情はキャッチされ、無意識のうちに伝わっていく)

これらのことから考えると、個々やチームの感情の変化が、試合の流れとして現れたり、スタジアムの「空気」となって伝わってくることが納得できるのではないでしょうか。

 

「2-0が危ない」という呪文の真実と、客観的データ

日本の試合を見ていて、特にそれを感じた試合がありました。
日本がベルギーを相手に2点目を獲得したあと、サッカー経験のある人々の頭の中には、ある一つのメッセージが思い浮かんだに違いありません。あるいは放送でこういった言葉を多く耳にしたかもしれません。

「2-0が一番危ない」

なぜかサッカーの世界では語られることが多いのですが、昔から言われている理由はこうです。

・2点先制したチームは気が緩み(安心、楽観)集中が切れてしまう可能性がある。
・その一方で追いかけるチームは力を振り絞って捨て身でくる(必死、怒り、恐れ)

追いかけるチームはライオンに追い詰められたヌーのように一か八かの反撃を繰り出すのです。
本来は「2点リードしても気を抜かないようにしよう」と注意喚起するメッセージでした。
しかし2-0からの劇的な逆転劇での勝利の歓喜や敗戦のショックは人々の脳裏に深く刻まれ、鮮明に記憶に残ります。同じような状況が現れると、その記憶がよみがえり、その時感じた感情も脳内では発生します。
そういった過去の記憶によって呼び起こされる「逆転されるイメージ」が、2-0になったあと、「注意」を越えて不安や恐怖となって選手たちや見ている人たちを襲うのです。実際に2点リードをした後の日本からは、必死になる相手の勢いもあり、硬さが見られました。

以前、「2-0が一番危ない」説に疑問を感じた私は、監督時代に客観的にデータから調べてみたことがあります。
数々の大会のデータから言えることは「2-0は極めて勝利に近いスコア」であったことを覚えています。
特に後半に入ってからの2点のリードは、8~9割の確率でリードしている方が勝利していました。

 

適切な状況判断・行動選択のために、感情知能を活用する

冷静に、客観的に状況を捉えれば、逆転は起こりにくい現象ですが、感情と紐づく記憶と、「2-0が一番危険」という暗示が状況を冷静に捉えることを邪魔します。
ピッチで戦っている選手や監督たちが実際同じように捉えていたかはわかりませんが、プロの選手や指導者が番組などで「2-0が一番危ない」と話していることを聞くと、たとえ代表クラスであっても頭をよぎったに違いありません。
そういった不安や恐怖にとらわれず、適切な状況判断と、行動選択をするためには感情知能と呼ばれるEQ(Emotional Intelligence:EI)の発揮が欠かせません。

strong>自己認識: 自分は今どんな感情が沸いてきているのか?それはなぜか?
自己管理: この感情・思考・行動は目的達成のために適切だろうか?
違うとらえ方や対応を取った方が良いのだろうか?
自己方向づけ: 自分の行きたい方向はどこだろうか?
自分の感情・思考・行動はそこへつながっているだろうか?

EQの3つの能力として位置付けられている「自己認識」「自己管理」「自己方向づけ」を常にプレー中状況の変化の中で発揮する必要があるのです。

 

組織感情とパフォーマンス

また、組織感情の研究分野では、組織をとりまくムードは「組織風土」と呼ばれ、その組織風土がパフォーマンスに影響を与えることがわかっています。

組織風土は組織のパフォーマンスを大きく左右し、組織がパフォーマンスを発揮するためには組織風土の管理が重要です。
更に組織風土は、リーダーのEQスキルによって左右することもシックスセカンズ研究でわかっています。

組織風土のカギを握るのはリーダーです。
日本代表の監督が代わったことで短期間にもかかわらずこの組織風土が変わり、今までなかなかパフォーマンスを上げることができなかった何人かの選手達がパフォーマンスを上げることができたのには納得できます。

また、サッカーのピッチ上ではキャプテンやエースの存在がカギとなります。
コロンビア戦で同点に追いつかれた場面、セネガル戦でリードを許した場面などではキャプテンやエースが言葉やプレーでチームを鼓舞し、チームの感情状態をコントロールしていました。
一番難しかった場面は、話題にもなった0-1で日本がポーランドにリードを許したまま、迎えた残り10分の場面でした。
迷いや反対もあり得る状況で、監督が下した難しい決断を、投入された長谷部キャプテンが、「無理に攻めない」というしぐさやメッセージによってこのチームの感情を鎮めて一つにすることに成功しました。

 

感情を生み出すリーダーの存在

「いける」「やれる」「大丈夫」「納得」

こういった組織の感情を生み出すリーダーの存在の重要性は企業もスポーツチームも変わりません。
ビジネスでもスポーツでもそしてライフキャリアにおいても、目まぐるしく変化する状況や、突然のアクシデントや逆境を乗り越え、自分たちのもっているパフォーマンスを生み出していく為に、

・個々のEQを育むこと
・リーダーのEQを育むこと

状況と共に揺れ動く自己やメンバーの感情を素早くキャッチし、進むべき方向を常に見定め、目的の為に適切な感情、思考、行動の選択ができる能力「EQ」を一人でも多くの人に育んでもらえる世の中にしたいと、ワールドカップを観戦して、改めて強く心に思いました。

 

シックスセカンズセカンズジャパン
須澤 知史