子どもたちの「生きる力」を育む教育:保育士が実感するSELの実践効果
by : THdesign | 三森 朋宏 |
2025年9月16日 |
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※この記事は、シックスセカンズ認定資格者として活躍するパートナーの皆様による、実践事例やEQ活用のヒントを紹介する記事です。
こんにちは!今回は、山形県鶴岡市温海地域の保育園で取り組んでいる SELの実践について、保育士のみなさんから寄せられたリアルな声をお届けします。この実践は、子どもたちの心の発達に寄り添うだけでなく、保育士自身にも大きな気づきをもたらしています。
「自分の気持ちを言葉にするのが苦手な子」「友達とのトラブルにうまく対処できない子」…多くの子どもたちが抱えるこれらの課題に対し、日々の保育の中にSEL の考え方を取り入れた保育園の先生から、確かな手応えを感じる声が届きました。
子どもたちはどのように変化し、保育士の先生はどのような手応えを感じているのでしょうか。 保育園での「EQチェックイン」を中心とした実践を通して見えてきた、子どもたちの「生きる力」を育む秘密を紐解きます。
1.感情を「見える化」するEQチェックイン:自分と向き合う時間
保育園では、毎朝「EQチェックイン」という活動を行っています。これは、さまざまな表情が描かれたカード (イーモーションカード)の中から、その日の自分の気持ちに近いものを選び、その理由を話すというものです。この活動は、子どもたちが自身の感情を客観的に見つめ、言葉で表現する練習の場となっています。
この取り組みを継続することで、子どもたちには次のような変化が見られました。
●気持ちの表現が豊かに: 保育士の先生は、「表情カードを使うことで、自分の気持ちをうまく伝えることができなかった子が少しずつ今の気持ちを伝えられるようになってきた」と語っています。また、「泣いていても、泣いている理由を表情カードを使いながら言葉にできるようになった」という声もあり、感情を言葉にする力が着実に育まれています。特に、年少組の頃からこの活動を続けている年長児は、「楽しかった」だけでなく、「何が、誰と」といった具体的な状況まで詳しく話せるようになっています。
●トラブル解決の第一歩に: 子どもたちがトラブルを起こした際にも、この表情カードが活躍しています。保育士の先生は、「今までは先生が仲介に入っていたが、今は自分たちで解決する姿が見られる」と、子どもたちの自立的な問題解決能力の向上に驚きと喜びを感じています。「相手の気持ちを考えることができるようになり、お互いがとった行動の裏にある感情を伝え合い共感することで紛争解決ができるようになった」という言葉は、共感力が育まれている証拠です。この自立的な問題解決の姿は、シナプススクールでも見られる現象と同じであり、保育士自身も大きな手応えを感じています。
2.感情の裏側にある「本当の気持ち」に気づく
SELの実践は、子どもたちが表面的な感情の奥にある、より深い気持ちに気づくきっかけにもなっています。
保育士の先生は、子どもたちが「なぜそのような気持ちになったのか、その原因について話せるようになった」と感じています。怒り、悲しみ、喜びといった感情がどういったものか把握し、その原因がわかることで、「気持ちをセルフコントロールできるようになる第一歩」であると捉えています。 また、かけっこ大会で負けて怒った態度を見せていた子が、振り返りの際に「悔しかった、泣きたかった」という本当の気持ちに気づき、大粒の涙を流したエピソードは、感情をうまく表現できない子どもにとって、目で見て選べるカードが自分の気持ちと向き合う上で非常に有効であることを示しています。
3.共感力と思いやりの心が育まれる
EQチェックインは、自分の気持ちと向き合うだけでなく、他者への関心や共感力を育む効果も生み出しています。
未満児と以上児の交流保育など、異年齢での関わりが増えたことで、普段の遊びや生活でも微笑ましい場面が多く見られるようになりました。保育士の先生は、「友達の思いにも寄り添えて共感したり意見したりする様子が増えている」と語り、他者の気持ちを理解し、思いやる心が自然に育まれていることを実感しています。 また、特別な活動の前後にもチェックインを取り入れることで、楽しかった思い出の裏に「友達と離れるのが寂しかった」という複雑な感情があることに子どもたちが向き合えるようになり、豊かな心の成長が見られると語っています。
4.保育園と保育士にとってもポジティブな効果
毎日のEQチェックインは、子どもたちだけでなく、保育士の先生方にとっても重要な時間です。先生方自身も自分の気持ちと向き合い、感情を調整する力が向上することで、先生同士や先生と子どもの間に、お互いの気持ちを尊重し配慮する関係が自然と育まれています。
隣県の新潟県小千谷市から視察に訪れた方々からも、「子どもも先生も元気で楽しそう」「皆が自然と話を聞き合い、協力したり、時間を守ったりしている」「叱る声や怒る声が全く聞こえない」といった感想が聞かれました。これは、先生方が穏やかな気持ちで子どもたちと接することができている何よりの証拠です。
EQチェックインの実践は、保育士自身のウェルビーイングを高めるだけでなく、園全体の風土をより穏やかで活気のあるものに変えていると言えます。
5.教育者、保育士、保護者の皆様へ:「毎日がプラクティス」
今回ご紹介した保育園の実践は、子どもたちの感情表現力、自己理解、他者への共感力、そしてトラブル解決能力を飛躍的に高める効果があることを示しています。
この実践は特別な場所だけで行われるものではありません。これは家庭でも同じです。「今日、楽しかったことは何?」「ちょっと悲しかったことはあった?」と、お子様と日々の出来事を振り返り、感情を言葉にする練習を重ねることで、心の成長をサポートすることができます。
SELは、特別なプログラムではなく、日々の生活の中にある「心の練習」です。お子様の気持ちに寄り添い、一緒に感情と向き合う時間を持つことで、子どもたちの未来を支えるかけがえのない「生きる力」を育んでいきましょう。
さいごに:本取り組みの沿革と背景
この取り組みは、2019年に当時の鶴岡市温海庁舎長であった(故)粕谷一郎氏と、シックスセカンズのEQエデュケーターである三森朋宏の出会いから始まりました。
人口減少が進む温海地域を「教育の力で活性化する」という目的のもと、地域の小中学校や保育園の校長、園長、理事といった方々にSEL(社会性と情動の学習)に関する講演を実施。その中で、最初に手を挙げてくださったあつみ福祉会が運営するあつみ保育園と鼠ヶ関保育園に、2020年から教職員向けの研修を開始し、導入に至りました。
現在では、2023年から地域の小・中学校にも導入を拡大しています。
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SEL × SDGs 子どもたちの未来 〜山形県鶴岡市温海地区の実践〜
株式会社THdesign
一般社団法人 感情活用研究会
鶴岡市あつみ地域SEL教育アドバイザー
三森朋宏

理系日本企業でエンジニアとして働いているときは、「感情」に目を向けることは皆無でした。職種が営業に変わり、お客様や仕事を共にする仲間の気持ちに気づいたり、自分の気持ちを整え、心の通うコミュニケーションをすることの大切さに気づくことができました。心が通うと営業の仕事は面白いように上手く行きます。その後、人材育成の仕事に変わり、心の通う経験を全ての人に伝えたいと思いEQの専門家としての道を歩み始めました。心が通うとき、人は自然と笑顔になります。人を笑顔にするEQを全ての人に伝えて行きたいと思います。
そしてシックスセカンズの学習哲学とEQモデルは、EQを活用するために本当に大切なことを伝えています。
EQを学びたい方へ
Six Secondsグループは、グローバルで、科学に基づき、実用性の高いEQを世界各国で伝えています。日本オフィスであるシックスセカンズジャパンでは、最先端のEQの情報を日本語で発信するほか、Six Seconds国際認定資格セミナーの国内開催を行い、資格を持ち日本各地で活躍するEQチェンジエージェントと共に日本全国へEQを届けております。