店長に贈る EQスキルアップ連載 第3弾 「活かす」
by : EQファシリテーター|掛川 幸子 |
2023年5月16日 |
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※この記事は、シックスセカンズ認定資格者として活躍するパートナーの皆様による、実践事例やEQ活用のヒントを紹介する記事です。
「結果を生むために「何をやるか」「なぜするか」「どうやるか」」(店長が店舗にもたらすもの)
前回は「スタッフの行動を変える為にあなたが選択出来るもの」(選択するのは自分自身)という題材で自分の行動パターンを考え、その行動パターンをつくっている店長のマスクの表と裏をしっかり見つめ、新しいパターンを選択する勇気を持ちましょうと学びました。そうすることで新しい世界が見えてくるかもしれませんともお伝えしました。
今回は、「活かす:Give Yourself」です。
報酬
Wさんはカフェの店長です。
お店はオープンして三ヶ月。スタッフもだんだん仕事に慣れてきました。
ある日、スタッフのBさんがランチメニューを手書きで書いてきてくれました。手書きはすごく味があって、お店の雰囲気にぴったりでした。
W店長はとっても嬉しくなって
と尋ねました。
さっそく店長であるあなたはスタッフにインフォメーションしました。
しばらくすると、スタッフのCさんがやってきました。
もともと高学歴のCさんは少々理屈っぽいところあった。W店長はたった8行のランチメニューを書くのに、いったい時間がいくらかかるというのだ?と思いましたが、
W店長は、やれやれ…。と思った。
いよいよ手書きメニューのスタート日。
Bさんは手書きメニューを手際よく書いて客席の枚数分をコピーしていた。彼女は休憩時間中に書いてコピーに要した時間はおよそ10分くらいだった。とくにそれにかかった時間の分を長く休憩を取るわけでもなく、できあがったメニューをお客様が見ている様子を満足げに見ていた。
翌日、Bさんがお休みだったのでCさんがランチメニューを書くことになった。Cは休憩に入るとまずメニューを書き始めたが、そのゆっくりたるや、いったい1行に何分かけるのだ?という感じ。そしてコピーしてできあがったら
8行のメニューを書いてコピーするのに40分を要したCさんはそれから1時間休憩を取り始めた。もちろん40分も遅れるとは思っていなかった他のスタッフはカンカン。
ランチが始まったが、Cさんが戻ってこないので、ランチはしっちゃかめっちゃかになり始めた。お客様からのクレームは入るし、スタッフは
と怒り出す。
内発的なモチベーション
昔こそ「お店が大好き!」なスタッフはサービス残業であったり、お店のために自分の時間を割いたり・・という姿がありました。今では労務管理も厳格になり、スタッフも「お金をもらえるのであればやる」という「報酬や見返りがないと協力しない」、という姿勢も増えてきている場合もあります。
そんな中、Bさんはどうして、自分から手書きメニューを持ってきて提案し、休憩も延長せず作業をしたのでしょう?
そこには「内発的なモチベーション」というものが存在します。
報酬や見返りなどの外因性によるものではなく、個人の興味、関心や価値観、責任感や達成感など内部からわき上がるエネルギーのことです。皆さんにも普段の生活の中で誰にも報酬や見返りをもらっていないけど進んで行っていることはありませんか?例えば、大好きなゲームを朝までやったり、鍋をしようというとやたらと仕切りたがったり。報酬も見返りもないのに、なぜ率先してしまうかは「行っていること自体が喜び」であり本人にとっては「喜び事態が報酬」なのです。
Bさんは手書きでメニューを書くことが「楽しい」と思っていたのです。なので、休憩を消費したという意識ではなく「休憩に楽しいことをした」という意識が大きかったのでしょう。
持続可能なエネルギー
小さな子どもを思い出してください。子どもは誰に報酬をもらう訳でもないのに「必死」で遊びます。疲れ果てるまで遊んだり、どんどん工夫をしたり、ものすごい集中力です。そして「片付けなさい」と止められたら泣いて怒るほどです。
彼らは「遊び」に「強力な内発的なモチベーション」を持っています。その持続可能なエネルギーはすざましいです。
報酬や、脅威など外部の力によって動機づけられたものは長続きしません。お店のスタッフの働きも同じです。
「少しでもお客様のグラスが空になりかけたら、おかわりを伺ってね」と指導したら「おかわりをとれたらいくらもらえますか?もし変わらないのだったら別に率先していかなくても時給は一緒ですよね」と言われた店長がいたという話も聞きました。
店舗のスタッフに率先して様々なことを前向きに行動してもらえるようになるには「内発的モチベーション」を彼らの心の中に育てる必要性があるのです。
共感力の活用
ここで店長に必要とされるスキルは「共感力の活用」です。共感力の活用とは相手の感情を理解し、適切な対応をとれるということです。共感とは相手の感情や経験に対して偏った判断はせずに開いた心の状態を作る行為です。
共感は他者を理解し、持続的で信頼感のある関係を作る上でとても重要です。
Bさんが「書きたい!」と喜んだのに対して
Cさんが「店長これはこれから手書きにしていくという決まりですか?」と聞いてきた時、店長はBさんの気持ちにしか共感していないように見えます。いや、正しく言うとBさんの気持ちにも正しくは共感できていなかったのです。
W店長
『手書きメニューでお客様により細かい情報が日替わりで伝えられたら、満足度もあがって来店頻度があがり、売り上げが伸びるかも!』
Bさん
『カフェのメニュー手書きって素敵!そういうのに憧れてたし、書くのが大好きだからうちの店もやりたいな』
Cさん
『印刷したメニューに「日替わり」って書いておいて接客で話せばよいことなのに、それの方がコミュニケーションになると思うのに。書いてあるからってあんまり説明しなくなったら意味ないし、毎日書いて印字って効率も悪いし、紙ももったいないな。でもそれが決まりならやるしかないけど、それで結構時間使うといやだな。休憩削られても嫌だな』
どうでしょう。こうしてみると、W店長はBさんの気持ちにもCさんの気持ちにも正しくは共感できていません。
共感とは、「快」「不快」のどちらの状態にも留意し、他者の経験を真摯に思いやらなくてはいけません。
ベーシックメッセージを思い出す
連載第1弾に示したベーシックメッセージを思い出してみてください。(店長に贈る EQスキルアップ連載 第1弾 「知る」)
「喜び」の場合いったい何が持続され、繰り返されたいのか?「期待」の場合どんな大切な物がやってきているのか?
「怒り」の場合は何を邪魔されているのか?「嫌悪」の場合、破られた規則や指針は何なのか?
W店長は手書きを実施することで、来店頻度アップにつながるかも!という未来が近づいてきて「期待」の感情を持っています。
Bさんは毎日書くことがあこがれていたカフェの仕事っぽくて手書きが毎日続くことに「喜び」の感情を持っています。
Cさんは完全に自分のいつも仕事の価値観をやぶられたことに「嫌悪」の感情が生まれています。
ベーシックメッセージを元にもしW店長が自分の感情やまわりの感情に共感できていたら、とるべき行動も変わってきたかもしれません。
店長のノーブルゴール⦅自分(店舗)の道しるべとなる目標⦆の追求
店長としてのノーブルゴール⦅自分(店舗)の道しるべとなる目標⦆は明確ですか?
店長としてのビジョンやミッション、ずっとお店に受け継いでいきたいサービスの心。その信念を用いて店舗の目標や方針を決定する姿勢は周りの人々に影響を及ぼします。特に共感が併せて発揮されているとさらに力を持ちます。
店長としてのノーブルゴールが、明確でスタッフに浸透していると、倫理感があり、スタッフはぶれない行動がとれるようになります。前進するのに少し時間をかけてしまうような時もあるかもしれませんが、結果として店長の得たい結果になるためには、少し回り道をした方が良いときもあります。
何か店舗で問題が起こったときも「それは店長の意思に反するんじゃないかな」というスタッフの意見も出てくるようになるかもしれません。
店長は自身のノーブルゴールを指針にスタッフの心に共感し、そして店舗の進むべき道に真の「内発的モチベーション」を導いていくことが出来れば、スタッフは生き生きと働き始めます。
結果を生むために「何をやるか」「なぜするか」「どうやるか」これこそ、店長のノーブルゴールが必要不可欠なのです。
W店長のノーブルゴールの追求
では、最後にW店長のノーブルゴールの追求をみてみましょう。
〈W店長のノーブルゴールは〉
*いつも来てくださるお客様を自分の一番大切な人のように大切にすること。
*スタッフとお客様がまるで家族のように良いコミュニケーションをとれること。
*スタッフはカフェを作り出す環境の一つ。笑顔、オペレーション、すべてがお客様の居心地の良さにつながること。
W店長は今一度BさんとCさんと話しました。
あえて自分の気持ちではなく、お客様とスタッフにとってどんな事があるのかを尋ねてみました。
W店長は言いました。
W店長はCさんが一番大切にしている指針に共感し、Cさんにそれをお願いしました。
そして、W店長は残りのスタッフにも言いました。
スタッフ一人一人が動き出しました。
CさんはBさんと相談し、あまりすべてを書き込みすぎない手書きメニューにするように提案しました。
結果的に文字数も減ったので、書く時間も短縮できました。
他のスタッフも一生懸命かんがえて様々なアイデアを出し始めました。きらきらとやる気の表情をしています。
店長の示したノーブルゴールをベースに「喜び自体が報酬」という空気が出来あがっていったのです。
EQは人間関係の鍵
店長の皆さん、「知る」「選ぶ」「活かす」に分けてお送りしてきたEQスキルアップのためのヒントはいかがでしたでしょうか?
EQ(感情指数)は心の知能指数とも言われます。
感情というのは、全人種が持っている物です。
感情をうまくナビゲートできれば、人は計り知れないモチベーションパワーをもって、活かすことが出来るのです。
ここに書いてあることは理想的な絵空事のように読める方もいるかもしれません。でも絵空事をめざしたほうが楽しいと思いませんか?
ぜひ、EQを鍛え、すばらしいお店を作っていただければと思います。
株式会社イーアンドシーエスサポート
代表取締役社長 掛川幸子
6セカンズ認定 EQプラクティショナー
CEQF:(上級)EQファシリテーター
株式会社イーアンドシーエスサポート代表
自分の世代も、その次の世代も、またその次の世代も、ずっとずっと人類が幸せに生きているように。
300年後「掛川さんがいたから今も幸せだよね」と言われるような、EQを広める人物でありたい。
EQを学びたい方へ
Six Secondsグループは、グローバルで、科学に基づき、実用性の高いEQを世界各国で伝えています。日本オフィスであるシックスセカンズジャパンでは、最先端のEQの情報を日本語で発信するほか、Six Seconds国際認定資格セミナーの国内開催を行い、資格を持ち日本各地で活躍するEQチェンジエージェントと共に日本全国へEQを届けております。
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