職場のコミュニケーションで大切な、3つのポイント
by : Six Seconds本部 CEO Joshua Freedman |
2020年1月20日 |
職場におけるコミュニケーションはいつも難しいものです。成果に向けたプレッシャーや日々の目まぐるしい変化の中で、「”意見”の”一致”」などまるで相反する言葉にしか聞こえないような職場環境になってしまうこともよくあります。
今日は米国本部CEO Joshua Freedmanの記事より、「職場のコミュニケーションで大切な、3つのポイント~すぐに試したい実践的なヒントと避けたいありがちな落とし穴」をお届けします。
米国本部が2011年2月に初版を発表、その後2019年11月に一部改訂を行った「3 Key Tools for Workplace Communication
Practical tips to try and common pitfalls to avoid」の日本語翻訳です。
画像をクリックすると米国本部の原文記事をお読みいただけます
幸い、感情と脳についての研究が進み、コミュニケーションにおいて大切なポイントが明らかになってきました。まず、背後にある感情に注意を払うことで、より深い対人コミュニケーションができるようになります。また、ご自分の使命から話を聴くことができるようになると、課題解決の力が飛躍的に高まります。そして「誰の”でも”を、優先させる”べき”か」を常に肝に念じ、コミュニケーションが一方的に力を誇示するものではなく、双方向のやりとりになるように注意しましょう。
ポイント1:背後にある感情に注意を払いましょう
飼っている犬に、優しく、愛情を込めた声で「こらこら困ったやつだな、お前は。またソファを噛んだりして。捕まえてやるぞ」と言うと、犬には「いい子だね、かわいいやつだ」と聞こえている、ということは想像できますよね。犬はコミュニケーションにおいて、言葉ではなく感情的な部分を聴き取っています。
一方、私たち人間同士でのコミュニケーションでは、思い込みや文化の違い、感情は無視すべきという空気や風土もあり、目に見えない感情は複雑に作用します。最近、中国でコーチングのトレーニングを機会がありました。参加していた一人のコーチがイライラしているように見えたので、クラスの後に本人へそのことを尋ねました。すると彼女は「違います、集中していただけです」と答えるのです。
もし私が自分の生まれ育った文化や言語の環境で同じ場面に遭遇したら、この時の自分の中に沸いた評価に自信を持てていたでしょうが、この時は確信が持てず考えてしまいました。私が目に見えていた言動(サイン)を何か間違って解釈してしまったのか、それともこのコーチが根底にある感情を見ないようにしている(あるいは否定している)のか、もしくはそのどちらもか―――?
背後にある感情がどのような力を持つのか。これを知るには、政治家の仕事ぶりを観察すると良いでしょう。国会中継(議会中継)を見ると、議員が立ち上がって「”尊敬すべき”我が同僚に異議申し上げます!・・・」と発言する瞬間に注目してください。この同僚がこの瞬間、”いかに尊敬されているか”、誰しもが言葉では聞き取ることができます。しかし実の所、議員は言葉で、礼儀正しいという「ふり」をしています。一方、その”尊敬すべき同僚”の方は、言葉の裏に隠された感情に反応してたいてい腹を立てています。
影響力が高い反面、間違って引用されることも多い研究ではありますが、アルバート・メラビアンという学者が、コミュニケーションにおいて感情の情報がどうやって伝わるのかを研究しました。その結果、感情のコミュニケーションを構成要素に分解したとき、言葉で伝わる感情の情報は10%程度であることがわかりました。感情のほとんどは声のトーンや他の「パラ言語」(表情、動作など)から伝わっていました。私たちがしょっちゅう言葉を操る(嘘をつく)一方で、5歳の子どもですら10秒以内でずばりと嘘を見抜いてしまうのは、こういったわけなのです。
ではこれが、どうして重要なのか。
結局のところ、日々のコミュニケーションのほとんどで私たちがしようとしているのは、何かをはっきりさせたり、気遣いをつつも自分自身の中にある何かを正直に伝えたりすることなのです。そしてその何かは、言葉によってわざとわかりにくくしているというよりは、いつの間にか混乱してしまっている場合がほとんどです。
ではなぜ、こうした混乱が起こるのか。
その原因の一つは、人はたいてい同時に複数の感情を抱くという現実です。
そしてもう一つ、最大の障害は:
私たちが他人の感情のシグナルを、自分自身の感情や経験のフィルターを通して解釈してしまうことです。脳科学者のデービッド・イーグルマンが洞察にあふれる著書『Your Brain, the Story of You』の中で脳について大変面白い研究を紹介しています。この自分のフィルターを通した解釈には神経構造が影響しているというのです。私たちの脳の中心部では視床と扁桃体が協力してすべての”交通”を監視し、脅威レベルを見極めています。入ってくるデータは扁桃体へ行き、それから脳の他の部分に送られて処理されます。これで問題なし!ただし、
私たちの記憶から扁桃体に繋がる神経経路の数はその逆方向のものよりもはるかに多いということを除いて、です。つまり、送られてくる神経シグナルの大多数はすでにそこにあるデータ、つまり思い込みや偏見、過去の学習、気分などからで、それらが私たちの全認識を形成していることになるのです。
この落とし穴を避けるのにおそらく最も大事となるのは、自分自身が何を感じているか、より正確に言うと自分がどのような混じり合った感情を抱いているか、はっきりとわかっておくこと、そして自分が言葉で行うコミュニケーションがその混ざり合った感情と矛盾しないようにすることです。もし思考と感情、行動を一致させられないのであれば、自分自身がもっとしっかり明確になるまで話し合いは先延ばしにする方が良いでしょう。
私たちは他人の感情のシグナルを、自分自身の感情や経験のフィルターを通して解釈しています。自分がその瞬間抱いている感情をしっかりわかっていることがコミュニケーションで不可欠なポイントであるのはそのためなのです。
ポイント2:自分の使命から、話を聴きましょう
きちんと聴かない限り、きちんとしたコミュニケーションは成り立ちません。「聴く」ことは言葉をコミュニケーションに変える手段です。今、あなたはこの記事を読んでいるかもしれませんが、ここにどれだけ賢く役に立つ言葉が並べられていたとしても、あなたが集中せず、何か全然別のことを考えて「聴いて」いなければ、ここに並ぶ言葉は頭に入らないでしょう。生理学的に見ると、海馬という脳の部位があって、そこが集中力を司っています。海馬は脳のオフィスで働く優秀な受付スタッフのような存在です。脳の中にある「電話」を見て、3つライトがついているのに気づくと「これ以上脳は電話を受けられない、この人(この情報)は追い払ってしまおう」と判断します。また有能な受付スタッフ同様、海馬はオフィスで何が起こっているのかに非常に敏感で、社員がどれだけピリピリしているか、どれだけ忙しいか、どれだけ不安を抱えているかを把握し、視床や扁桃体と連携して誰が入ってきて良いかを適格に判断します。
また優秀な受付スタッフと同様、海馬たちを騙すことはできません。「その電話受けますよ」と口で言いつつ「また電話を受けないといけないなんて!勘弁してよ、あり得ない。私はまだ・・・」などと考えていたりすれば、海馬-視床-扁桃体チームにはちゃんとわかってしまいます。結果、脳の一部がシャットダウンされます。つまり”スイッチを切る(無視する)”わけなのですが、場合によってはこれが鬱や不安、引きこもりや疲労に切り替わることもあり得ます。
海馬に注意を向けさせる上で主要な働きをするのは感情であることがわかっています。本当に関心を持っている(または何かを強く感じている、または脳に様々な感情がある)とき、海馬は「スイッチオン」になり、より有効な注意を向けるのです。
ですから本当に聴こうと思うなら、紛争解決のお決まりの手順として学ぶうわべの”傾聴”だけでは不十分です。実際に関心を持つ、つまり、全力を傾ける必要があるのです。
あなたは相手には関心がないかもしれません。その会話や問題には関心がないかもしれません。しかし自分の態度が、自分の真の目的や目標の達成に繋がるということには関心があるはずです。
言い換えると、私たちにはみなそれぞれに個人的な使命があります。文字にしてはいないかもしれませんが、私たちはみな特定の目的を追求しています。ですからコミュニケーションをする際にはいつでも「たった今行っているコミュニケーションは私の使命達成にどう役立つだろう、あるいはどう妨げになるだろう」と自分自身に問えば良いのです。もしその使命を文字にしていないとしたら、今がその時です。自分自身の使命を文字にすることは、地図を見るときに方位磁石を持っているようなものなのです。(=ノーブルゴールの追求)
多くの人の使命には、問題解決、学び、責任意識、世界をよりよくすることなどの要素が何かしらの形で含まれています。この”外向きの”思考があると、コミュニケーションの際に人とつながりやすくなるのです。自然と、相手を思いやる理由が生じるからです。これは非常に役立つ力であり、逆にこれがないとコミュニケーションはいつもどこか凡庸なものになってしまうでしょう。
もしかするとこの能力が、EQが成功にこれだけ重要な要素になっている理由の一つなのかもしれません。他者と心を繋げられる人は言葉を超えたメッセージを聞き取ることが出来ます。衝突を学びの機会に変えることができるのです。どんなに複雑でも、混とんとしていても、不満を感じても、耐え抜くことができるのです。
ポイント3:誰の”でも”を、優先させる”べき”か
権力が移り変わるとよくこれが話題になります。3歳児が決まって「自分でやる!」と言うのと同じように、昔から私たちは誰に決定権があるかを気にするものです。そのため、「私どものデータからわかりますように」や「私がこれまで扱ったすべてのケースにおきましては」、「Aさんとちょうど話していたのですが」という言葉の内には、「私の話は当然聴くべき」「私はこの打ち合わせに重要な存在だ」「私が今から話すことは正しい」というような、様々な想いが見え隠れしているのです。
私たちは権力を握るのにどんな言葉が使えるかも学んできました。しかし問題は、掴んだ権力はたいてい長続きしない、ということです。それに自分の地位を利用して無理やり従業員に何かさせたとしても、それで協力体制を生み出すことにはまず繋がりませんし、実際に問題を解決したり課題に立ち向かっていくために互いの距離を縮めていくことにはまずならないのです。
権力を握るのに最もよく使われる二つの言葉は、「でも(but)」と「べき(should)」です。私自身はこの二つを祖母から学びました。「ジョシュ、あなたはそんなに優秀で頭も良いし、創造力もあるのに(but)、どうして弁護士にならないの?弁護士になるべき(should)よ、それか医者にね」。私は祖母のことが好きですし、そんなことを言われても別に我慢できます。それにこんなことを言うのも祖母の役割のうちだともわかっています。一方で、別にそんな話を普段からしたくもないのです。
人が「でも(but)」と言う時、実際は「’but’の前に言っていることは私にとって重要ではない」と伝えているのと同じです。言いたいことは’but’の後。「それは良い提案ですね、ですが・・・」「あなたのおかげで大変助かったよ!でも、・・・」
ですから、「but」という言葉は慎重に使う必要があるでしょう。もちろん、完全に「but」をなくす必要はありません。本当にそう伝えたいときもあります。例えば「すべてもっともな理由だ。しかしいずれにしても私はリスクをとる覚悟なんだ」といった具合で。
また「べき(should)」と言うのは、私にはあなたの優先事項を決める権利がある、それどころかあなたの優先事項を決める義務すらある、と思っているのと同じことになります。例えば部下の優先事項を決める権利は100%自分にある、と感じている場合に使うことが多いでしょう。しかし(おっと、しかしではなくて・・)、それでは振り返って、なぜその人が自分では動かないのか、なぜ自主性がないのか、なぜ課題を事細かに説明しないといけないのか、尋ねてみてはいかがでしょうか。そこで「should」よりもはるかに役立つのは「・・・しませんか?+気持ち」という表現です。例えば「ファイリングを先にしない?そうしたらすごく助かるんだ」のように。
試しに、「でも(but)」や「べき(should)」と自分が言う度に意識を向けて、それが本来何を言わんとしている言葉なのかを考えてみてください。自分がこれらの言葉を使うのは、場をコントロールしたり、権力を維持したり、自分の正当性を主張したりするためなのか、それともお互いの理解を合わせるためなのか、よく考えてみるのです。
目的は何なのか
コミュニケーションの目的はあなたの考えを伝えることではない、ということを忘れないでください。コミュニケーションとは二人の間に橋を架け、その真ん中で相手に会うことです。そこに行けば、より視野は広がり、より力はみなぎり、より晴れやかな気持ちになるに違いありません。
Six Seconds米国本部CEO
Joshua Freedman
訳者:コンビンスアイ 森川
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