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ドラッカーが伝えたかったこと(6)イノベーションの正しい理解―それは全員がなすべき日常業務である

by : 6SJ経営研究センター フェロー 今村哲也  | 

2018年12月14日 | 

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知識労働者が成果を出し続ける方法、言い換えればテイラーの「科学的管理法」の知識労働者版が「The Effective Executive」だ、と前回解説したが、この考え方とイノベーションは実は裏腹のものである。多くの日本人は「イノベーションって日本語で言うと何?」と問われれば「技術革新」と答えるだろう。だが、これは日本をミスリードした翻訳なのだ。では、本当のイノベーションとは何なのか。

シックスセカンズジャパン経営研究センター今村フェローによる「ドラッカーが伝えたかったこと」シリーズ第6弾をお届けします。
 

 

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前回、知識労働者が成果を出し続ける方法、言い換えればテイラーの「科学的管理法」の知識労働者版が「The Effective Executive」だ、と解説した。この考え方とイノベーションは実は裏腹のものである。

多くの日本人は「イノベーションって日本語で言うと何?」と問われれば「技術革新」と答えるだろう。これは日本をミスリードした翻訳である。この概念について初めて纏めたJ/シュンペーター(*)の著作の最初の日本語訳は「新結合(原語はNeue Kombination)」だった。シュンペーターは知識と知識の新しい結合こそ、イノベーションに共通することだ、と喝破した。約100年前の記述であるが、後世のこの分野の研究者たちでこの考え方に近い人は多い。

流通業で言えば、戦後日本に大きな影響を与えたスーパーマーケット、またそれと対極のモデルであるコンビニ、これらを支える新技術は当然あるだろうが、この二つのビジネスモデルのキモは新技術ではない。自然科学ではなく社会科学的な発想から生まれ多くの価値を社会にもたらした。イノベーションとは新技術だけのことではない。

ドラッカーはイノベーションには7つの泉がある、とした。今回はその紹介はしないが、最も成功率の高いものが「予期せざる成功と失敗」であり、最も成功率の低いものは「新技術」だという。イノベーションの日本語訳が「技術革新」。なんという皮肉!日本をミスリードした誤訳、と言っても差し支えないだろう。

さて、多くの組織では、半年なり一年なりの経営目標を作り、月ごとに成果をフォローし月次予算との乖離を確認する、という活動を行う。月の予算に届かなければ都度、対策を検討するだろう。いわばこれが「予期せざる失敗」。然しながら半年、一年たって、年度末に対予算105%となった時には、ほぼすべての組織のトップは「みんなが頑張ってくれたおかげで105%やれた、ありがとう」、以上。ドラッカーは「たまたま組織が考えていたことが、世の中の変化方向に一致していた。だから予期せざる注文がいただけた。多くの場合その変化方向とは組織の強みを活用できるもののことが多い」という意味のことを語る。環境の変化と組織の目指す方向との齟齬によっておこることが「予期せざる失敗」。これが一致すれば「予期せざる成功」そこに新結合を行うことにより成果を確実にしてゆく。当然得意な分野のはずだ。だからドラッカーは「すでに起こった未来」(**)というワードを使う。さらに予算とは「何を止め何に取り組むか、すなわち資源配分をどうするかについて、組織内にてコミュニケーションを図る事」と考えよ、と述べている。止めることによって時間と資源を作らなければ新しいことなどまともに取り組めないからだ。そうしてイノベーションが起こる条件を作ってゆく。だからこそ、全員が実施しなければならない日常業務なのだ。

同時にエグゼクティブは成果を出すためにTheory of the businessを考える。ドラッカーの有名な問いかけ、 (1)ミッションは何か、(2)コアコンピタンスは何か、(3)顧客は誰で、顧客でないのは誰か、(4)何を持って成果とするか、(5)どうやって定義すべきか がこれにあたる。そしてこれらを追求することこそ、同時に環境変化に合わせてイノベーションを考えることになる。イノベーションとは新しい知識と知識が結び付いたときに生ずる成果物。したがってイノベーションとは万人、正確に言えばThe Effective Executiveに要求される日常業務である。だからこそ「最も成功率の高いイノベーションとは「予期せざる成功と失敗、特に成功」となる」

Continuous Learningができるのか?自分の全人格的強みとは何なのかを追求し続けることとは、まさしくノーブルゴールの追求とかさなる、EIの実践活動でもある。


*ジョセフ・シュンペーターはドラッカーの父親の友人だった。幼いころのドラッカーが父親から紹介されたこと、病床にあって間もなく生を終えようとするシュンペーターを父親とともに見舞ったことなどの記述がある
**同名の翻訳書があるが、広範囲なテーマを集めた論文集なのでタイトルに期待して読むと肩透かしを食らう
ではその日常業務の追及の為にはどうするのか?ここに「The Effective Executive」が関連するのだ。知識労働者が成果を出し続けるためには、自分自身が学び続け、同時に他の知識労働者から教えられなくてはならないし、教えなければならない、とドラッカーは主張する。仕事の成果に直結するものとしてドラッカーはこのような学びをContinuous Learningと名付けた。ドラッカーの主張は「継続学習」では断じてない。彼は「他の人の仕事の成果を大きくするもの」と定義をしているが具体的にはどういう事なのか?それは知識労働者として自分にしか教えられないモノのことである。言い換えれば、自分自身が最も得意とする事柄であり、しかもビジネスに直結する範囲では、自分以上によく知っている人は見当たらないレベルの深さを持つもののことである。だからすでに説明した、単にスキルのことだけではない、“Character”をも含んだ「自分の強み」を常に追求せよ、ということになる。自分自身が組織一知っていることをますます深める。ビジネス仲間(同じ組織のことと違う組織のことがある)も同じことを行う。そしてその最新知識を教えあう。そこに新結合が起こる可能性がある。そうすることによってドラッカーの言う「他の人の仕事の成果を大きくする」のである。実務直結部分の最先端を学び続ける個人、それを教えあう個人と個人の関係。これこそがContinuous Learning。だからSkill Learningではない。多くの研修講師が提供する内容はほとんどの場合Skill Learningでしかない。

シックスセカンズジャパン株式会社
経営研究センター フェロー
今村哲也


 

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