マネジメントとリーダーシップ ― ドラッカーが伝えたかったこと(8)
by : 6SJ経営研究センター フェロー 今村哲也 |
2019年2月1日 |
EQコミュニティマガジン, ノーブルゴールの追求, ビジネス, ピーター・ドラッカー, マネジメント, リーダーシップ, 生産性向上
「ドラッカーが伝えたかったこと」の連載が始まって4か月が経った。いよいよドラッカーによるマネジメントとリーダーシップの最終形について語る時が来た。
シックスセカンズジャパン経営研究センター今村フェローによる「ドラッカーが伝えたかったこと」シリーズ第8弾をお届けします。
ドラッカーによるマネジメントとリーダーシップの最終形については、ドラッカーが生前唯一共同著作を許したJ・マチャレロ教授が、ドラッカーの遺志を継いで没後編纂した「Management Revised Edition」(2006年)を熟読すれば大方理解できる。マチャレロ教授とはドラッカーのニューヨーク大学時代の教え子で経済学やシステム論などを専攻し、クレアモント大学院大学でドラッカーと家族ぐるみの付き合いをした方。最も信頼する年の離れた友人。この書籍は「経営の真髄」というタイトルで翻訳も出ているが、かなりの抄訳。マチャレロ教授の筆になる部分は大幅にカットされていることから、読者には「旧版(1973年の「マネジメント」)の、主要パーツが、順番を変えて並べられていて、ほんのわずかな加筆があるもの」にしか見えない。上田訳では1973年版が3分冊なのにマチャレロ教授版は2分冊。原書は2006年の改訂版のほうが少し厚いのに・・・・・・
マチャレロ教授の業績は、ドラッカーの最大の理解者・研究者であることからドラッカーの承認を得て2000年以降「編纂者」としてドラッカーの考え方を整理し直したところにある。だから「Revised Edition」の翻訳のうち、カットされた部分は他の共同著作を見ることによって若干は類推できる。但しその共同著作の多くが抄訳が多いばかりでなく、順序の入れ替えすらあり、二人の議論を類推するには限界がある。とは言えこの部分を知ることによって、ドラッカーが示したマネジメントとリーダーシップの最終形が見えてくる。
多くの方は「ドラッカーはマネジメントについては非常にたくさんの説明をしてくれているが、リーダーシップについてはどうだろう?」という疑問を持つはずだ。10000ページと言われる著作のうち、リーダーシップのみに触れたものはわずか邦訳にすれば15ページである。それは「未来企業」(1992年)の第15章である。既に絶版。幸いこのエッセンスが「プロフェッショナルの条件」に数ページ入っている。主張を一言で言えば、「リーダーシップとは正しい事を行うこと即ち責任である」だ。
J・マチャレロ教授が編んだ「Effective Executive in Action:A Journal for Getting the Right Things Done」(*)を注目していただきたい。またこの書籍の原本の副題にもご注目頂きたい。ドラッカーはこの書籍を通じて「リーダーシップ=Getting the Right Things Done: 正しい仕事を成し遂げること」とした。この著作は、ドラッカーとマチャレロ教授の共同著作であるから、当然のこととしてこの副題の意味は大きい。
しかもこの副題には深い意味がある。これは、ドラッカーの盟友、ウォーレン・ベニス教授のリーダーシップの定義「Do the right things」(**)にきわめて近い定義なのだ。そして2006年の「Management Revised Edition」にはマネジメントの定義として「Doing the right things」(正しいことを行う事)と再整理されている。あれ、ベニスのリーダーシップの定義と同じか?と早とちりしてはいけない。マチャレロ教授の未訳論文 “Executive leadership and effectiveness“ には成果を出すためのドラッカーの主張すなわちリーダーシップの枠組み図が示され、「Management Revised Edition」には冒頭にマネジメントのそれ(***)が示されている。この二つの図では、成果を出すこと(=リーダーシップ)、効率を上げること(=マネジメント)の枠組みをシステム思考的に説明している。
そしてこの考え方は、ベニス教授の「リーダーシップ=Do the right things、マネジメント=Do the things right」と極めて近い。ベニス教授の短いがわかりやすい定義に対し、ドラッカー/マチャレロ教授の定義が隔靴掻痒の感を受けるが、これこそがドラッカーらしさなのだ。実務家ならベニスの定義になるほどと思い、ドラッカー/マチャレロの定義こそ現場感覚、ということがわかるはずだ。成果を出すことと効率を上げることは重複することがしばしばあり二人の定義はそこまで含んだ概念だからだ。だからマネジメントは意味の上では「正しいことを正しく行う事」なのだ。この二つの図の詳細を解説するのは本稿の目的とは外れると考えるのでここでは紹介はしない。
さてこのリーダーシップ論の極みがドラッカーが最も大切にしたINTEGRITY(真摯さ)であり、これをH・クラウドが6要素に分解した。6要素(信頼を得る、現実を直視する、成果を上げる、逆境に対処する、成長する、価値観を作る)をみると、まさしくEI(エモーショナル・インテリジェンス; 感情知能; EQ)によって向上を意図できるものばかりである。その方法とはこれら6要素を実務上のマネジメント/リーダーシップの具体的な発揮行動に分解し、8つのコンピテンシーとの関連を検討することによって可能となろう。
* 邦題は「プロフェッショナルの原点」であるが、意味合いは「成果を上げるエグゼクティブー実務編」すなわち知識労働者の科学的管理法である「経営者の条件」の実務編の意味である。ただ、この書籍も抄訳のみならず、記述順の入れ替えまで加わっていて、翻訳は原書とはずいぶん違ったものになっている。
** ベニスはリーダーシップを「Do the right things」正しいことを行うこと、マネジメントを「Do the things right」ことを正しく行うこと、と定義している。
*** 「経営の真髄」にも翻訳されているが、是非原語であわせてご確認いただきたい。この図の肝心な部分に、かなり問題のある日本語があてはめられている。それは効率と効果の取り違いである。ベニス/ドラッカーはごく簡単に言えばマネジメントとは効率を高める事、リーダーシップとは効果成果を大きくすることの意味で説明しているが翻訳語は違っている。
シックスセカンズジャパン株式会社
経営研究センター フェロー
今村哲也
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