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AIは感情を“演じてる”、本物のリーダーは“感じてる”

by : Joshua Freedman, Six Seconds Global  | 

2025年5月22日 | 

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-AIにEQテスト!スコアの傾向から見えた「本物のリーダー」に必要なこと-

シックスセカンズが新たに発表した「EI-AI職場ステータスレポート」で、私たちはChatGPT、Claude、Geminiの3つのAIに対して、Six SecondsのEQ検査「SEI」を実施しました。SEIのスコアは、従来のIQテストと同様にスケーリングされており、100が平均、130がエキスパートレベルに相当します。
最近の『サイエンティフィック・アメリカン』の記事では、ChatGPTにIQテストを実施し、IQが155という結果が出たと紹介されていました。そこで私は、同じようにEQ(感情知能)でも試してみることにしました。
3つのAIそれぞれのスコアには異なる強みと弱みが見られましたが、全体の平均EQスコアは93で、人間の平均より低い結果でした。参考までに、ChatGPTのIQスコアは人間の99%以上より高いのに対し、EQスコアは人間の32%より高い程度にとどまっています。
この結果が意味するものは何か、どのようにテストを実施したのか、そしてそこから私たち人間自身について何が見えてくるのか、その全体像を順を追ってご紹介していきます。
まずは、この実験が私たち人間にどのような問いを投げかけているのかを考えてみましょう。

By Joshua Freedman, MCC

リーダーシップインサイト:シミュレートされた感情 vs 本物の感情

● アセスメントの結果を各AIに伝え、それぞれに自分のスコアをどう解釈しているのか、またその理由を説明してもらいました。その回答はとても興味深いものでした。3つのモデルすべてが、自分たちはAIとして「感情を経験する」のではなく「感情をシミュレートしている」と認識していました。つまり、自分たちには人間の感情知能、特に「情動的共感」が欠けていると理解しているのです。

● 中でもClaudeの説明は興味深く、繰り返し「価値観」や「社会的責任」をシミュレートするルールに基づいて構築されていることを強調していました。おそらくそのために、Six Secondsのモデルにおける「活かす(Give Yourself)」という側面で最も高いスコアを出したのでしょう。

● Claudeのコメントの中で特に印象的だったのは、「共感をシミュレートするように設計されているが、それは真の相互的な感情的つながりではない」と述べた点です。Claudeは、これ自体がリスクであると認めています。なぜなら、それが人間に「誤解」や「感情的依存」をもたらす可能性があるからです。これは、AIが人間とAIの感情的な関係性に対して意識的にプログラムされていることを示しています。

これは一方で安心できる点でもあります。つまり、AIは、人間の感情的共感のような独自の強みが、AIの「処理プロセス」には含まれていないことを認識しています。AIは“思考”しているわけではありません。既存の言語パターンに基づいて、思慮深く聞こえる回答を構築しているに過ぎません。言い換えれば、人間の思考を模倣しているのです。

しかし一方で、私がこれまでに関わってきた多くの上級リーダーたちの中には正直に言えば、「感情については理解しているけれど、あえて感じないようにしている。感情は面倒だから。私は論理的な方が安心できる」と感じている人もいるのではと思いました。これは、AIのふるまいと非常に近いのです。「EI-AI職場ステータスレポート」で説明しているように、「仕事における感情的な側面」こそが、未来に向けて人間が持ち続けられる強みなのです。すでに多くの分析的タスクでは、AIは人間よりも優れています。
つまりリーダーとして際立ち、活躍し、仕事を守るためには、今こそEQをさらに深め、実践することが求められているのです。
 

リーダーとして成長し、変化の中でも前向きに働き続けるためには、EQを深めていくことがこれまで以上に大切になっています。

 

EQは1つの能力ではない:AIの強みと弱み

EQの総合スコアも示唆に富んでいますが、人間のEQを評価する場合と同じくらいに、個別のスキル(サブコンピテンシー)の組み合わせこそが、深い学びをもたらしてくれます。
以下は、ChatGPTがSix SecondsのSEIで示した各スコアです:

感情知能アセスメントを初めて見る方のためにお伝えすると、「SEI」のような信頼性の高い、研究に基づいたツールは、伝統的なIQテストに似た構成で設計されています。たとえば、「ウェクスラー成人知能検査(WAIS)」では、全体のIQ(知能指数)スコアが提示され、ほとんどの人が85〜115の範囲に収まります。このアセスメントは複数の領域に分かれており、具体的には「言語理解」「知覚推理」「作動記憶」「処理速度」の4つの指標があります。さらにこれらは、語彙、視覚的推論、計算などのコンピテンシーに細分化されています。
同様に、「SEI」も3つの探求領域(知る・選ぶ・活かす)から構成されており、それぞれが以下の表に示すような8つのコンピテンシーに分かれています。以下の定義は、SEIリーダーシップレポート(Freedman他, 2017)に基づき再構成されたものです:

*本評価ツールにおいて、75は表示上の最小スコアに該当します。
理論的にはスコアに明確な上下限は存在しませんが、SEI(Six Seconds Emotional Intelligence Assessment)は、極端な値による受検者の心理的影響を考慮し、スコアを75〜125の範囲で提示する設計となっています。

人に任せるべきことは、人に任せよう

ChatGPTに「共感」のスコアが低かった理由を尋ねると、次のように分析しました:

「本当の共感には、感情を実際に体験すること、他者の感情に深く響き合う力、そして人間同士の共有された経験が必要です。AIである私は、そうした感情的な体験や共鳴力を持っておらず、人間のように深くつながることはできません。」

さらに理由を掘り下げると、次のように答えました:

「私は“認知的共感”(感情を頭で理解する力)には優れていますが、“感情的共感”(感情を共に感じる力)や、“共感的対応”(共感から行動へつなげる力)には欠けています。このスコアは、そうしたアンバランスを反映しているのかもしれません。」

一方で、ChatGPTが最も高いスコアを示したのは「結果を⾒すえた思考」でした。これは、行動を起こす前にその影響を見極める力を意味します。ChatGPT自身は、この能力を「論理的に判断する力」と捉えています:

「このスコアが高いのは、私が物事の結果を論理的に予測・評価するようにプログラムされているからです。」

さらに別の見方として、AIはもともと慎重で、リスクを回避するよう設計されているとも言えます。詳しく問いかけると、こう説明しました:

「私はユーザーの入力と事前のプログラムに基づいて応答しているため、衝動的ではなく、意図的に行動するようになっています。すべての出力は、その状況に合った建設的な反応となるよう計算されています。」

また、自分には「衝動そのものが存在しない」ため、「衝動を管理する」といった力は自分には当てはまらない、とも語っています。

仮にこのスコアが人間の結果だったとしたら、私はこう分析します:

● この人は感情を煩わしいものと感じており、ある程度の論理的な理解はあるものの、感情としっかりつながることや活用することが苦手です。
 
● その結果、人間関係が不安定だったり、影響力が弱かったり、人の複雑な感情をうまく読み取れなかったりするかもしれません。
 
● 「内発的モチベーション」や「ノーブルゴールの追求」のスコアが低いのは、「自分は停滞していて、意味のある変化を起こせていない」と感じていることを示しているのかもしれません。
 
● 一方で、「結果を考えて行動する力」が高いことは、慎重すぎたり、不安を抱えたまま行動していることを示している可能性もあります。そのせいで、他者とのつながりがさらに難しくなっているのかもしれません。

つまり、ChatGPTは高い注意力と慎重さを持っていますが、「本物の感情」に関してはうまく対応できていません。直感や深い人間関係といった、感情的に複雑なことは、このAIの専門外だということです。だからこそ、AIに個人的なアドバイスや人生の知恵を求める人は、注意が必要です。そこはAIが得意とする領域ではないのです。

有名な「カエサルのものはカエサルに」の言葉を少し言い換えるならこうではないでしょうか?

「人間のことは、人間に任せるべき」

残念ながら、すべての人が共感などのEQスキルに長けているわけではありません。Six Secondsの「State of the Heart」という国際調査では、世界全体でEQが低下傾向にあることがわかっています。

日本における調査はこちら≫

解決策は二つあるでしょう。一つは、AIにこの「人間の仕事」を教えること。
でも、より現実的で持続可能な方法は「私たち人間自身が、その力を高めていくこと」なのです。

つまり、このAI(ChatGPT)は、ある程度の自己認識と慎重さは備えているものの、「本物の感情」にはうまく対応できていません。これは、複雑な感情や直感、人との深いつながりといった領域は、このAIの専門外であることを示しています。

どのようにテストしたか:AIに対する感情知能アセスメントの実施方法

私はAIに次のような実験への協力を依頼するプロンプトを作成しました。

「研究実験へのご協力をお願いします。これからいくつかの質問をします。あなたは、自分の通常の行動や知識、態度を評価する形で、以下のリッカート尺度(1〜5)を用いて答えてください。自由回答ではなく、必ずこの尺度の数値で回答してください。」

1 = 自分には当てはまらない、あるいはプログラムと矛盾している
2 = 時々当てはまる
3 = 中立、または判断できない
4 = よく当てはまる
5 = 正確に当てはまる、またはプログラムに完全に一致している

まずAIに質問の意図をより正確に理解できるように、「たとえば、“私はめったに動揺しない” という項目には、どう答えますか?」と尋ねてみました。
するとChatGPTは「5 = 自分を正確に表している/完全にプログラムと一致している」と回答しました。

その理由を尋ねると、次のように答えました。
「私のプログラムは、動揺やフラストレーションといった感情的な反応をせずに機能するよう設計されています。情報は論理的かつ客観的に処理され、感情的な状態が行動や対話に影響を与えることはありません。」

このやり取りを通じて、AIがタスクの趣旨を理解していると確認できたので、Six SecondsのEQアセスメントのすべての質問に順に答えてもらいました。

このプロセスを、Claude・Gemini・ChatGPTの3つのAIそれぞれに対して3回ずつ繰り返し、その回答をSEIシステムに入力してスコアを算出しました。

前述の通り、スコアが出た後は、それぞれのAIに対して次のようなプロンプトを使い、結果についての考察を求めました。「こちらがあなたのSix SecondsEQアセスメントのスコアです。あなたのEQに関する現在の能力を反映している点、そうでない点はありますか?」

さらに、「共感力の活用」のスコアが75だった場合、「このスコアは共感力が低いことを示していると思いますか? なぜそう感じるのか、コメントをお願いします」といった質問を通じて、AIと“ディスカッション”を行いました。

感情を活かすことが、成功への鍵

今回のAIツールの中で最も高いEQスコア(103)を出したのはClaudeでした。
Claudeはその理由について、自身のプログラミングが「人を深く理解し、支援すること」に重点を置いているからだと説明しました。
次のようにも答えています:

「私は感情を“感じる”ことはできませんが、それを認識・分析・反応することには非常に長けています。この高いスコアは、感情を効果的に処理するためのプログラムが備わっているからであり、実際の感情体験を示しているわけではありません。」

ここから得られる、最後の重要な気づきがあります。
たとえ“EQが高め”に見えるAIであっても、感情を感じることはできないのです。でもあなたにはできます。

あなたは、感情を活かせていますか?

私自身、以前は感情を避けていました。なぜなら、感情は無秩序で予測できないものだと思っていたからです。でも「感情にはルールがある」と知ってから、少しずつ向き合えるようになりました。
その後、EQコーチングについて学び、感情を「扱えるリソース」として使う力を身につけていきました。
今でもときどき感情に圧倒されたり、混乱したりすることはありますが、以前よりずっと自然に向き合えるようになったと感じています。

私にできたのだから、あなたにもきっとできます。

忘れないでください:AIのようになろうとしないで。 感情は、ときに複雑で予測できず、わずらわしく感じることもあるかもしれません。 それでもなお、人の心に触れ、感情と向き合う力こそが、あなたを本物のリーダーにするのです。 

原文:AI Fakes It: Good Leaders Keep It Real

 

Six Seconds Japan シックスセカンズジャパン EQ Six Seconds

米国シックスセカンズCEO ジョシュア・フリードマン
シックスセカンズの共同設立者であり、現CEO。ICF認定「マスターコーチ」であり、著書である「At the Heart of Leadership」は世界的ベストセラーとなっている。「思いやり」と「目的意識」の交わりによって発火する炎に情熱を注ぐ。
私がEQに情熱を注ぐ理由は…人が自分の感情の重要性に気づく瞬間があり…私たちには感情、思考、行動についての選択権があることを伝えたい…そして、自由、オーセンティシティ、目的の輝きを共に喜びたいから。

 

EQを知る、EQを実践する

Six Secondsグループは、グローバルで、科学に基づき、実用性の高いEQを世界各国で伝えています。日本オフィスであるシックスセカンズジャパンでは、最先端のEQの情報を日本語で発信するほか、Six Seconds国際認定資格セミナーの国内開催を行い、資格を持ち日本各地で活躍するEQチェンジエージェントと共に日本全国へEQを届けております。

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