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「自分を知る」エキスパートに垣間見た孤独感

by : EQチェンジエージェント|株式会社コンビンスアイ・斎藤 良  | 

2019年5月15日 | 

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中規模製造業A社様で社員面談を実施させて頂いたときのことです。この会社の社長さんから「社員が普段どんなことを感じながら働いているのか聞いてやってほしい。なるべく率直な気持ちを知りたい。自分が面談しても本音出てこないかもしれないから」といったご相談がありました。私はEQアセッサーとして、まず始めにSEIリーダーシップレポートを受検して頂き、社員さんご自身の今の気持ちを客観的に捉えられるようにしました。

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社労士業も行う人材コンサル業を営みながら、Six Seconds国際認定資格を取得し、EQチェンジエージェントとしてEQを活用し活躍されている株式会社コンビンスアイ・代表斎藤氏より、2本目のコラムをお届けいたします。


SEIリーダーシップレポートを受検して頂き、社員さんご自身の今の気持ちを客観的に捉えられるようにして、一緒にSEIレポートを参照しつつ、ご自身の感情と向き合いながら日頃の振り返りをして頂きました。そうすることで、普段忘れていたり素通りしがちな自分の率直な気持ちに改めて気付くことができ、ご自身にとって大切だと思える次の行動に移しやすいのではないかという思いがありました。

その中のお一人、ベテラン社員Bさんとお話したときのことをご紹介します。

Bさんは20年程その会社に勤務され、専門的な業務内容から社内の人間関係に至るまで様々なことに精通されており、社長にとってはまさに右腕になるような人物です。EQコンピテンシーも総じて高いレベルを示しており、特に「自分を知る(自己認識)」という領域は“エキスパートレベル”に達しています。ただ、「内発的なモチベーション」が他のコンピテンシーに比べるとおぼつかなく、“未開発レベル”を示しています。ご本人もその点が大変気になるご様子でした。

そこで、まずはBさんの強みとなっているであろうエキスパートレベルの自己認識に焦点を当ててみました。私の経験上、「自分を知る」という感情領域が高い方は物事を論理的に捉えようとする傾向が強く、ご自身の気持ちに対しても理路整然としっかり説明できる方が多い印象があります。どちらかというと、左脳がより発達されている方々といえるのかも知れません。”なんとなく…”、”多分、こう思う…”といった曖昧な表現は少なく、“mだから今の私の気持ちはn”、“こういうxという感情はyという出来事に起因しているはず。だって、zなのだから”といった発言が多いように感じます。Bさんもやはり理路整然と、客観的にご自身の心情を語って頂きました。

曰く、

「3年前に連れ合いに先立たれ、人生の底ともいえる感情を経験している。子供達も巣立ち、孤独な気持ちを感じる日々が多い。周りは気を遣ってくれるが、こんな気持ちは他の人にはおそらく分からないであろう。会社には恩義もあり大事な仕事を任されている責任も感じるが、これからどうしていくのが良いのか考え出すと、どうにも力が湧いてこない。自分のモチベーションは確かに低いと感じているし、それはきっと生きている拠り所が会社やこの地域(Bさんは元々この地域の方ではなく、転入して来られた)にあるのではなく、他にあるのではないかと思ってしまうからではないか」

といった事柄を、少し寂しげな表情で淡々とお話されるのです。空虚な気持ちが重くのしかかり、自身の居場所感が見つからないと感じているBさんは、故郷へ戻って余生を過ごそうか、、とも考えておられるようです。

一通りお話をお聞きして、最後に私はBさんにこう尋ねました。

「故郷に帰れば幸せに暮らせそうですか。Bさんを理解し分かってくれる人達がいそうですか」

数十秒の沈黙の後、熟慮した末のBさんは、こうおっしゃいました。

「この孤独感は自分で招いていたのかも知れない。誰も自分の本当の気持ちなど分かるはずがないと高い壁を作り、周囲を拒絶していたのかも知れない。確かに何十年も離れている故郷に戻ったからといって、昔と変わらず自分を理解してくれる人間が果たしてどれだけいるのか分からない。どこにいようと、どんな環境だろうと、気持ちを作っていくのは自分自身なんだなあ、きっと」

そうおっしゃるBさんは幾分晴れ晴れとした表情に変わり、「話を聞いてくれてありがとう。いつもの孤独感が少し薄れた気がしますよ」と言いながら、席を後にされました。

尺度は人によって様々ですが、人間誰しも孤独を感じることがあるかと思います。そのとき、伴走してくれる周囲の人々がいることは、それだけでとても大きな力となり、前を向いて歩きだすきっかけに繋がるのではないでしょうか。そして、伴走者を認識したり感じたりするのは結局のところ、自分自身なのかもしれません。

EQアセッサーとしてポジティブチェンジに繋がる伴走者となれるよう、益々精進していきたいと感じられる良い機会を頂きました。

EQチェンジエージェント
株式会社コンビンスアイ・斎藤 良